陽だまりの種

採点:860点
HP:ほんの小さな物語
作者:ハギ

作品:陽だまりの種

■評価■
物語力:9/10
文章力:8/10
総合力:8.8/10

コメント:
 読んでいて「バタフライエフェクト」という映画を思い出しました(ハギさんが見たことないのであれば、一度見てみると、とても参考になると思います)。とても、おもしろく読ませてもらいました。
 一つの作品として、かなり、よくできた、よく作りこまれた作品だと思いました。しかし、よく作り込まれているだけに、小さな斑でも、作りこみの足りなさを大きく感じてしまいます。そのせいか、作りこみの足りなさを感じた部分が多々ありました。特に終盤に多くあったので、余計に足りなさを感じるのかもしれません。
 一人称視点で描かれていることもあり、物語に入りやすく、スタートから一気に引き込まれました。しかし、一人称視点で書いているせいか、場面転換の際に、情景描写の不足しているため、どのような場面に転換したのかわかり辛かったです。わかり辛い部分があると、せっかく物語りに引き込まれたのに、我に返り、前のページへ読み戻り、理解して進むという風になってしまうので、もったいないです。
 伏線は張られているのですが、その伏線の処理が早く、断続的に、伏線が張られ、解かれ、張られ解かれの繰り返しで、先に読み進む(進ませる)にはいいのですが、伏線を張っていることを露骨に感じてしまい違和を覚えます(一箇所ニ個所であれば気にならないと思うのですが)。伏線の張り方として、大きな伏線を作ると、大きく飛躍できるかもしれません(もしかしたら、両親の……、というのが伏線のつもりなのかもしれませんが、伏線を多用するのであれば、両親の……では、伏線にはなりえないと思います。それというのも、小さな伏線を多用していて、序盤に張り最後に解かれる伏線と、その物語の間にある伏線が同じ大きさでは陳腐に見えてしまいます)。
 伝えたい主題を盛り込みすぎているせいで、全ての主題がぼやけてしまっています。たくさんの主題を盛り込みたいのであれば、それを一気に伝えて行こうとせずに、順序だてて、主題を伝えるポイントを組み立てていくといいと思います。
 例の場所や、あの場所というような、物語のキーとして登場する場所が複数あり、わかり辛かったです。そして、複数あるせいで、一つの場の重みが薄れてしまっているように感じました。複数盛り込むのであれば、その場所へ対する重みが薄れてしまわないよう、気を使って書いて行かなければいけないのに、軽く進められていってしまっているように感じました。
 物語は終盤に向け盛り上がっていく(盛り上がりというのは、展開という意味ではなく、読み手の気持ち)モノで無ければいけないと思います。しかし、終盤になるにつれ、盛り上がりは平常、もしくは下がったように思います。それは、いくつかの安っぽい仕掛けのせいだと思います(突然、英文が出て、主人公が辞書で調べるシーンなど)。それまでしっかりと作りこまれているだけに、安っぽさを大きく感じました。
 身体を緻密に作っても頭が粗雑な人形では様にならないですよね?小説も同じだと思います。緻密に作り込んでいる部分があればあるほど、全てを緻密に作らなければ、普通以上に目立ってしまうと思います。
 文章面については、会話と心の内が交互する、特殊な描写方法などが使われていて、特に激しく読みづらさは感じなかったのですが、先に述べたように、情景描写の不足と、一人称にしては、違和を感じる部分がありました。文章のスタイル的に、石田衣良さんと似ているので、参考にしてみるといいかもしれません。
 作りこまれた分、ポイントが数多くあったので、長い批評になってしまいました。全体として、レベルの高い作品だと思いましたが、もう一味足りない気がしました。そのもう一味を加えるだけで、大きく飛躍する作品だと思います。

 これは私の読解力不足のせいかもしれなかったので、批評には加えませんでしたが、何故、両親は主人公の死の日を知っていたのでしょうか? 何故、困難を乗り越えると、死なずに済むとわかっていたのでしょうか? そして、主人公は何故、過去に戻ったのか。そして、何故、それが「三回」だけだったのか。夢であって、夢ではなく……、というような、曖昧な表現で解決されていましたが、結局、それらのことが最後までわかりませんでした。最後に一気に繋がるモノだと思っていたので、大きく違和が残り、作者本位的なモノなのかな?と感じてしまいました。

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